AIは、働き方や顧客ニーズ、そして個人の可能性まで、あらゆるものに影響を及ぼしつつありますが実際の職場では、AIツールはどのように活用されているのでしょうか。
世界的に導入が加速しているAIツールは、日本では依然として活用が遅れています。昨年、総務省が発表した「令和6年版情報通信白書」によると、企業における生成AIの利用状況において、「積極的に活用する方針を定めている」企業の割合はわずか15.7%でした。同調査で対象となったアメリカ、ドイツ、中国と比べると、業務における生成AIの活用状況において「検討もしていない」割合が3か国とも2%以下だったのに対し、日本は6倍以上の13.2%でした。
そして今年7月に発表された「令和7年版情報通信白書」で、生成AIを積極的に活用する方針を打ち上げた日本企業は23.7%にとどまっていることが明らかになりました。活用方針の策定状況は、大企業においては約56%と増加傾向にありますが、中小企業では約34%と過半数にも満たないことが明らかになっています。
そこでAIツールを積極的に活用している人とそうでない人でどのような違いがあるかを比較するため、Amplitudeでは国内500人のマーケター(AI活用者250人・非活用者250人)の業務実態を調査しました。生成AIなどのAIツールをどのように活用している点に加えて、現状の満足度やAIに対する認識がどのように変化しているかにも注目しました。
今回の調査を通じて、AIツールがマーケターの業務効率を大きく向上させていること、そして多くの活用者にとって既に欠かせないツールへと変わってきていることも明らかになりました。AI活用マーケター250人のうち、約6割が自分の業務時間が短縮されたと回答しており、さらには44.4%が業務改善のパートナーだと考えています。
AIツールはマーケティングの業務にどのような影響を与えているのか?
AI活用者のうち約6割の回答者(56.8%)が、一年前と比べて同じ量の業務をこなすのに必要な時間が短縮されたと回答しており、非活用者(25.6%)と比べて倍以上の差がありました。AI活用者において、週に平均で1〜3時間の作業時間の短縮を実感している人は41.6%にも上ります。さらに30%以上は、週に3〜10時間も短縮していると答えています。
AIツール活用の影響は、通常業務における満足度の変化にもつながっています。AIを活用しているマーケターの半数が業務の成果(50.8%)に満足していると回答しているのに対して、非活用者で同様に回答したのは27.2%のみと、マーケティング業務に対する充実感でも差が生まれています。
AIツールを使って強く感じた変化3つを質問したところ、効率の向上と回答したマーケターが一番多く44.8%、次に36.8%が仕事の質や成果が上がったと答えています。そして30%がAIツールの使用によってアイディアが増えたと回答しており、成果を生み出すだけでなくインスピレーションを与える大事な要素にもなっていることが明らかになりました。
マーケターはどこでAIツールを活用しているのか?
マーケティング職でのAI活用方法は、市場調査や競合分析などのリサーチ業務(36.4%)が一番多く、続いてデータ分析業務(34%)という結果になりました。使用しているAIツールに関しては、過半数の136人が「ChatGPT」と回答しています。
一方で、AIを使用していないマーケターも同様にデータ分析(17.6%)とリサーチ業務(14.4%)が一番時間がかかる作業であると回答しています。
現に、将来的にはマーケティング職という領域全般で、さらには一人ひとりのマーケターにとってもAIツールが必須になると考えている人がAI活用者の72%にも及びます。非活用者で同じように答えた割合は28.8%と低く、将来的にも「選択肢の一つに留まる」と考えている割合が22.4%を占めています。マーケターで生成AIなどを積極的に業務に取り入れている人は、AIツールを必需品だと感じるように考え方も変わってきています。
マーケターにとってAIツールはどんな存在?
AI活用者が日々の業務でAIツールを重要視していることは明らかです。生成AIやAIエージェントへの認識について聞いてみると、約4割が「業務改善の強力なパートナー」だと回答しており、単なる業務効率化ツールではないことが理解できます。
AIツールの活用は個人の生産性や業務満足度だけでなく、チーム全体に良いインパクトをもたらすと感じるマーケターも多くいます。実務への影響については、31.6%が「チーム全体のパフォーマンスが向上する」、26.8%が「チームメンバー間の成績の差が縮まる」と答えました。つまり、AI活用者の半数以上がチーム規模でのポジティブな変化を実感しています。
また業務の先にある自身の市場価値や収入に関しても、AIツールを活用しているマーケターの55.2%が、生成AIなどの登場がキャリア形成において有効であると考えていることが明白になりました。さらにAI活用者のうち、ここ一年で最も成果が出たと感じる業務において4割以上 AIツールを活用したとする回答が139人と過半数を超え、AIツールが個人の能力を高める役割を果たしていると認識しています。
このような影響は、長期的にキャリア成長の機会につながっていきます。AIツールを使いこなせないマーケターの価値は、今後下がっていくと回答したAI活用者の割合は70%に上り、長期的なキャリアを考える上で大事な要素であると認識していることが示されました。対照的に、同様に回答した非活用者は40.8%にとどまり、この認識には大きな差があることが分かりました。
AIツールを導入するうえでのリスクとは?
非活用者にどのような状況が整えばAIツールを使い始めるか質問しところ、最も影響の強い要素として「会社からの指示や推奨があれば」と回答した人が約2割となりました。さらに非活用者では、29.6%が「同僚やチームメンバーもAIツールを使っていない」と答え、マーケティングの職種においてもAIを活用する方針が定まっていない企業が多数存在していることがうかがえます。
AIツールの活用における懸念点については、AI活用者と非活用者の間で大きな違いは見られませんでした。最大の懸念は、共通して「情報漏洩・セキュリティのリスク」が挙げられており、AI活用者では26%、非活用者では18.8%となっています。次いで多かった回答は「著作権や倫理的な問題」(AI活用者16%、非活用者10%)となりました。これらの結果から、AI活用をさらに促進するには、安心して利用できる環境づくりやルール整備が重要だと考えられます。
結論
本調査から明らかになったのは、AIツールを活用するマーケターは、効率や成果への手応えのみならず、自分自身の市場価値に対しても前向きなツールだと実感を得ているということです。
時間短縮や満足度の向上といった表面的な効果にとどまらず、AIは今、必須ツールや強力なパートナーとして認識されつつあり、新しい技術に対する姿勢にも大きな変化をもたらしています。こうした影響から、AIを活用していないマーケターとの間には、AIによる成果の向上が将来的に市場価値や収入の差につながると考える価値観に対しても違いが生まれています。
Amplitude では、自社内でもお客様との取り組みでも、AIの価値を実感しています。例えば、ウェブサイトのコンバージョン改善ワークフローの最適化に、アイデア出しから実験、実装、公開まで以前は約1カ月かかっていましたが、Amplitude AI Agent を活用することで、同じ工程が1日足らずで完了できるようになりました。マーケティングチームにとって、大幅な時間短縮につながっています。
市場には数多くのAIツールが登場しており、どれを使うべきか迷うかもしれませんが、私たちのおすすめは、まず試してみることです。社員がさまざまなツールを使い比べ、効果を見極めたうえで投資を最大化することを推奨します。また、長期的計画策定においては、AIは加速度的に進化していますが、そのメリットを活かさない手はありません。